世界をリードする日本の『組み込み技術』エンベデッドシステムとは
最近『組み込み』関連の商品が増加し展示会も盛況ある。ビジネスとして改めて「組み込み」の定義を考えた時、意外と身近なところに回答があることに気付く。日本文化そのものが歴史的にも環境的にも、組み込みビジネスを育てる土壌にある。国土が狭く、資源に乏しい条件下で、先人たちの限られた空間に、限られたリソースを最大限有効に活用する知恵が、現在「職人の巧みの業」として伝統的に引き継がれている。「巧みの技」と「組み込み技術」にはある種の共通点が有る。
1. 身近な組み込み技術
(1)「組み込み商品」のニーズ
量産される汎用機、標準的に生産される専用機などの商品と違い、「組み込み商品」は、ユーザが必要とする用途に、より最適化した「機能」を持たせた利用側に立った商品である。現在の市場状況は『商品が売れる時代』から、ユーザが求める『機能を売る時代』へマーケットは変化した。メーカとしては多様化するユーザのニーズに対し、迅速に対応する商品開発技術が必要である。その対応策として「組み込み」技術を駆使して商品を供給する体制作りが急務である。
(2)何故日本は「組み込み技術」が得意なのか
日本人にとって国土の環境はともかく、仕事人としての「やりがい」が組み込み技術には有る。 世界の生産技術の規模には、大型システム構築技術から部品組み立て作業技術まで各種ある。生産現場の製造作業工程で必要な装置や機器類には、ユーティリティ・システム・コンポーネンツとしての機能が存在し、そこには組み込み技術が必要となる。組み込み機器の多くが、5千個から5万個の部品点数やアルゴリズムから成り立っている。日本人が最も仕事に「やりがい」を感じ、思考的に得意な分野である。
米国人は100万個の部品からなるシステムやアルゴリズム構築が得意である。(マイクロプロセッサの開発、ジャンボジェト機の開発、NASAの宇宙開発など)。
日本人は5千個から5万個の部品のシステム構築が得意である。(自動車、工作機械、半導体製造装置など)。 アジアの発展途上国は50個から3千個の部品のシステム構築に仕事の「やりがい」を感じる。 (TV、パソコン、各種ハーネスの組み立てなど)。
(3)日本の組み込み技術の傑作
日本には世界をリード組み込み技術商品の傑作が数多くある。その体表的な産業機械分野では部品点数2万個から3万個からなる①自動車、②半導体製造装置、③ロボットがある。
① 自動車
最近の自動車には100個以上のマイクロプロセッサが登載され、エンジン制御、車体バランス制御、ナビゲーションなどに使われている。その代表的な製品がハイブリッド車で、省エネルギー対策、環境対策面でも理想的で最先端技術の組み込みである。日本の自動産業は生産量、機能、品質面で米国GM社を抜いて、もはや世界一になるのも時間の問題といわれている。
② 半導体製造装置
半導体業界では1980年前半、一つの課題があった。品質の安定と製品の歩留まりの向上である。米国半導体デバイスメーカのほとんどが、前工程(ウェーハ上で回路形成)を米国内で行い、後工程(パッケージまで)を東南アジアの比較的人件費の安い国へ運び、検査組み立てを行っていた。そのため商品の品質にはばらつきが有った。その問題に気が付いた日本メーカでは、ウェーハをXYステージ上に載せ移動させ、検査装置のプローブをカード形式にした自動化システムを考案し商品化した。これが世界の誇る「ウェーハプロービンググマシン」である。単純作業を高速自動化しただけではなく、品質面、時間当りの処理量も安定した装置となった。それ以降日本の半導体装置メーカが、米国企業に追いつくまでに数年しかかからなかった。
③ ロボット
二足歩行ロボットの進化は、世界の注目の的である。ホンダ技研工業(株)が開発した「ASIMO」、ソニーマーケッティング(株)の「AIBO」に代表されるロボットを見ると、技術の仕事を生きがえとしている多くの日本人に夢と希望を与えてくれる。子供の頃夏休みに夢中になって制作したプラモデルなどから、人間のように自由に歩行するロボットの誕生など想像も付かなかった。初期のロボットの役割は人間に代わって、組み立て、溶接作業の代行が代表的なアプリケーションだった。これからのロボットの役割は介護用、癒し役など感性を取り入れた機能を充実していき、今後は人類の最高のパートナーとなっていくであろう。
2. 各種アプリケーション
身の回りにあるほとんどの機械には、何らかの組み込みシステムが搭載されているといっても過言ではない。洗濯機、炊飯器、テレビ、ビデオ、デジタルカメラ、プリンタ、コピー機、携帯電話、自動車、自動販売機、券売機など、複写機、複合機・、人工衛星、FA機器、エアコン、半導体製造装置、医療機器、カーナビ、車載機器、工業制御/FA機器/産業機器、コンピュータ周辺機器、AV機器、通信端末機器、通信設備機器など
3. 組み込みに必要な技術とは
組み込みに必要な技術は①コンピュータシステム技術、②制御システム技術、③メカニカルI/F技術が三要素となる。目的によっての違いはあるが、リソースの最適な組み合せを選択するところからスタートする。
コンピュータシステムを制御するためのOSは「組み込みOS」という。汎用パソコンなどのコンピュータシステムとは異なり、要求される機能や性能が極めて限定され、厳しいコスト上の制限から利用可能なリソースに強い制約があるのが特長。安価なCPUと少ないメモリ、プログラムを内蔵するROMという構成が多い。世界の組み込み用CPUとしては英国ARM社のチップが約50%使用されている。日本では(株)ルネサステクノロジ社SHシリーズが車載用を中心に多く使用されている。OSではITORON、WindowsCE、Linuxなどが一般的に普及している。応答時間が一定の範囲内にあることを保証する高いリアルタイム性や、少ないメモリで動作するコンパクトさが求められる。最近では機器に組み込みデータベースを持たせるた携帯電話、カーナビなどのアプリケーションが増えてきている。今後組み込みデータベースとしては、オラクル社のDB、「Berkeley」、ユビキタス社の「DeviceSQL」などが中心となる。データベースのフットプリントは、20KBから500KB、の商品が最も普及の対象になっている。
3. 組み込み関連業界の流れ
組み込み系業界の潮流に新たな変化が出ている。主流は組み込み製品をより簡単に、安価で大量に構築 する各種ソフトウェア・モジュールの出現である。過って情報端末機器、特にOSに依存するコントローラ、表示器、計測器などの商品は、カーネルに熟思したSIerの市場であった。その市場に対し新たに多数の大手企業が参入し、あまりにも早い技術の変化、大量の情報処理、ユビキタスの普及などの課題に対応する「ソフトウェア・モジュール組み合せ」時代へと市場を変化 させる。従来HMI機器の大半は専用機であり、汎用機とは業態を分けて存在していた。情報端末市場も専用機、汎用機の二極化商品から、オープンな汎用機にオリジナリティを持たせた、「オリジナル組み込み汎用機」の出現で市場は三極化していく。クライアントや一般SIerは、システム構築に必要なモジュールを組み合わせる事で、目的の機器が簡単に出来上る時代がきた。これが『コンシューマ・ジェネレーテッド・エンベデット』CGEの始まりである。メーカはお客様のご要求に応える各種インフラに「組み込み用モジュール」を登載し、汎用機からお客様の好みの専用機を制作するする時代は、我々日本人が情報を共有し、知恵を出し合い、次の時代へ「巧みの業」を継承する最も重要な仕事である。
【記事】株式会社エフエイオープン
【顧問】藤平 實(ふじひらみのる)